パワーゲーマー 1995年4月号
発売年月日:1995年2月28日(発行:4月1日)
出版社:マガジンボックス
項数:146ページ
定価:560円(税込)
概要
中身を云々する前に確認したいのですが……この雑誌をご存知という方、いらっしゃいますでしょうか?
本誌『パワーゲーマー』は1985年12月に創刊された家庭用ゲーム総合誌『ゲームボーイ』が、94年9月号を以て改題し、アーケードゲーム専門誌へ転向した姿となります。
あまりにもマイナーすぎて、一体いつまで存続したのかもよく分からないのですが、Google先生に「パワーゲーマー ○年×月号」と打ち込んで調べてみると、「95年5月号」でまったく反応しなくなるので、おそらく今号が最終なのだと思われます。
この当時にアーケード専門誌といえば、やはり『ゲーメスト』が押しも押されもせぬ絶対王者として君臨していたワケですが、その歴史の陰には玉座を奪い取ろうと果敢に挑戦し、徒花の如く散っていったマイナー誌がいくつか存在したのです。
あまりにも薄味な格ゲー情報
今号のメイン企画は3本立てで、巻頭には稼働を1週間後に控えた『ヴァンパイアハンター』の登場キャラクター14体を1キャラ1ページずつ使って紹介。
続く『X-MEN CHILDREN OF THE ATOM』は隠しキャラ・豪鬼の使用方法を大々的に報じるとともに、ボスキャラであるジャガーノートとマグニートーの情報を公開、その後プレイアブル10キャラを簡単に紹介する構成。
センターカラーで特集を組まれているのは、これまた1ヶ月後に稼働予定の『餓狼伝説3』で、プレイアブルキャラ10人が1ページずつ紹介されています。
メインからは外されたものの、その後には『サイバーボッツ』の作品概要とパイロットたちのプロフィールが掲載されており、当時のアーケード情勢を反映するかのように、格ゲー関連のページが実に手厚い誌面構成となっています。
さて……勘のいい方であれば、そろそろ察しがついた頃合いではないでしょうか。
通常、アーケードゲーム誌の格ゲー記事といえばシステム解析に始まりCPU戦の攻略法や対人戦の戦術、実用的な連携・連続技の情報等をバンバン掲載して、プレイヤーに戦い方の指針を示すものだと思うのですが、今号に掲載された記事ときたら、まるでグラビアのようにキャラの公式イラストを並べるばかり。
な、何か……何かゲームの中身の話をしている格ゲー記事はないのか!?
そんな切実な想いを抱きつつ非カラーのページに飛びつけば、そこには『餓狼伝説SPECIAL』、『ギャラクシーファイト』、初代『ヴァンパイア』のページが!
ゲームの紹介記事ではないものの格ゲー関連ということでは、誌面後半には「こちら極限流幼稚園ユリ組」と題した、見開き2ページ丸々ユリ・サカザキの話をするだけのマニア向け企画が差し込まれています。
巻末の編集後記を読む限り、ノリと勢いだけでおっ立てた突発企画だったようですが、「読者の反応がちょっと楽しみ。好評なら……♡」と、シリーズ化を匂わせています。
それと同時にメーカーのチェックが入ることを懸念しており、SNKに話を通す前に見切り発車しているところに、なかなかの狂気を感じます。
アーケードゲーム専門誌……なんだよね?
格ゲー以外の記事はどうかということで改めて目次に目を通すと、78~79ページに『得点王3』と記載されています。格ゲーばかりのNEOGEO市場において、一部でコアな人気を博したサッカーゲームですね。
で、実際に78ページを開いてみると……
担当ライターが記事の締切に間に合わなかったのか、『得点王3』の掲載そのものが流れたのか……何らかの事情で記事の差し替えが行われたのでしょうが、目次を書き換え忘れるのはメストでもなかなか見られない類のミスです。
気を取り直して他のページに目を向けると、『クイズ殿様の野望2 全国版』に『ボンバーマン ぱにっくボンバー』と、タイトル的には小粒なラインナップですが、格ゲーのページよりはよっぽど記事としての体裁を成しているのではないでしょうか。
さて、その調子でページをめくっていくと……
作麼生、アーケードゲームとはなんぞや?
……とまぁ、家庭用ゲーム総合誌だった前身『ゲームボーイ』の誌風から抜けきれていないのが丸わかりのコンシューマー作品情報が続々と出てきます。思えば、前出の『デイトナUSA』の記事も、よく見たらセガサターン版のものでした。
無論『ゲーメスト』等にも家庭用ゲームを扱うページが無かったワケではありませんが、本誌が専用のコーナーを設けるでもなく、アーケード作品と家庭用作品を同列に並べて普通に掲載しているあたりは「アーケードゲーム専門誌」を名乗っていることに、疑問符をダース単位で束ねて投げつけたい衝動を覚えざるをえません。
その他
今号からの新企画として、フルカラー3ページにわたる声優インタビューの連載コーナー「天上の歌声」がスタート!
……と言っても、雑誌そのものが廃刊となったため、第一回目がイコール最終回という悲しみを背負ってしまったワケですが。
当時の「あるある」として、「ゲーム雑誌がテコ入れで声優を取り上げ始めたら危険信号」というものがありますが、本誌もまたその例から漏れることは出来なかったようです。
ゲーム雑誌たるもの読者投稿コーナーは付き物ですが、本誌の読者コーナーは他誌のそれに比べて投稿イラストの掲載スペースが多いのが特色で、今号ではフルカラーのページだけでも7ページ。モノクロページの他コーナーでも、随所にイラスト掲載スペースが割かれています。
意地の悪い見方をすれば、他に盛り上がるような企画も無いので、読者の善意と労力に全力で頼っていた……と言えなくもありませんが、所謂「キャラ愛で格ゲーやってます」系のプレイヤーには、時にガチ勢の排他的な発言が飛び交うこともあるメストの読者コーナーよりも居心地が良かったかもしれません。
わりと家庭用ゲームを題材にしたイラストも散見されるのですが、次号予告のページには「本誌はアーケード専門誌なので、今後はアーケードゲームのイラストしか受け付けません」という旨のガイドラインが発出されています。
同人誌紹介ページも6ページ、文通相手・サークル会員募集ページも2ページと、他誌に比較して多くのページを与えられています。攻略情報が手薄な分、ゲームファンの交流の場としての機能を充実させる方針だったのでしょうか?
その一方で文字投稿のコーナーは読者からのお便りを取り上げて、編集者2人があーだこーだと会話するフリートーク形式のみ。
読者がパロネタや4コマ漫画、替え歌等で笑いをとりにいく、他誌で定番の企画等も見受けられず、まだ発展途上のまま終わってしまった感じがして一抹の寂しさが漂います。
雑感
1995年といえば言わずもがな「格ゲー全盛期」と呼ばれる、半ばアーケードゲーム=格闘ゲームの様相を呈していた時代です。
それに比例して格ゲー情報に特化したゲーム雑誌の需要も高まっていき、今号発売の1ヶ月後には『ネオジオフリーク』が創刊されるワケですから、格ゲー色を前面に押し出すという本誌の戦略そのものは間違っていなかったと思います。
ただ、前身が家庭用ゲームの雑誌だっただけに、おそらくスタッフやライターたちの格ゲーに関するプレイヤースキルはそんなに高くなかったのでしょう。攻略に重きを置いた正攻法の誌面構成で『ゲーメスト』と渡り合うだけの戦力を、本誌の編集部は持ち合わせていなかったのだと思われます。
世間のニーズは読み切っていたけど、それに対応できる土壌が無かった……今号の格ゲー記事からは、そんな悲哀が感じられます。