八幡的備忘録

だいぶコレクションが増えてきて、何を持っていて、何を持っていないのかが自分でもよく分からなくなってきたので、その整理を兼ね所有するレトロゲーム雑誌や攻略本、サントラ等の解説と関連する個人的なエピソードとかを書いていこうというブログ。

【格ゲー元ネタ語り】 #1 加藤保憲

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はじめに

 サムスピプレイヤーとして以外の理由で私を知っている方の大半は、私がニコニコ動画に投稿していた格闘ゲームの作品ストーリーやキャラクターの設定の変遷を解説するゆっくり動画をご存知のことと思います。



 令サムの対戦に明け暮れていたとか、コロナ禍で遠出が出来なくなって資料の収集が滞ってしまったとか、近隣の店にあった関連書籍はほとんど我が家の本棚に移籍してしまって新しい収穫がないとか……色々と事情はあるのですが、すでに動画投稿者としての活動を停止して1年を超えてしまっており、やんわりと危機感をおぼえる今日この頃。



 雑誌や書籍の紹介ばかりというのも飽きるので、私の格ゲー史研究の新たな形として、格ゲーおよび格ゲーキャラを題材としてきた動画とは別に格闘ゲームの「元ネタそのもの」を語る記事でも書いてみようかと思い立った次第です。

 まぁ、続くかどうかは分かりませんが、とりあえず試運転ということで、以前に動画で『ストリートファイター』シリーズのボスキャラクター・ベガの設定に関する解説をした際に元ネタ(より正確には「元ネタの元ネタ」)として取り上げた、加藤保憲というキャラクターについて語っていこうと思います。



 記事の性質上、出典作品の重要なネタバレを含むことになりますので、その点を了承の上でお読みいただくようお願いします。



概略

キャラクター名  加藤 保憲(かとう やすのり)
出典作品  荒俣 宏『帝都物語
初出年月日  1983年9月20日(原作小説の初回掲載誌の発売日)
 格ゲーへの影響   → ベガ(漫画『力王 RIKI-OH』の鷲崎を経由)
 → ゲーニッツ(漫画『BASTARD!! -暗黒の破壊神-』のアビゲイルを経由) 
歴史的意義  ・旧日本軍の軍服を身にまとう悪役・ダークヒーローの端緒
 ・風水、陰陽道式神等を駆使する超能力者系キャラの端緒

 

 出典作品となる帝都物語は昭和末期の1983年に角川書店の月刊誌『小説王』上に連載され、翌84年より同社の新書判レーベル「カドカワノベルズ」において単作書き下ろしの形で出版された長編小説です。

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 当時すでに西洋のファンタジー小説や映画、日本の魔法使いモノの漫画・アニメ等は一定以上の人気を博していましたから、魔法だの超能力だのを駆使して戦うバトルファンジーの概念は確立されていましたし、山田風太郎の「忍法帖シリーズ」をはじめとして、そういった特殊能力を忍法・妖術の類に置き換えて時代劇に落とし込む手法も珍しいものではありませんでした。



 その中にあって『帝都物語』が画期的だったのは、当時オカルト・神秘学の中でもあまり戦闘に用いるイメージがなかった風水や陰陽道を物語の中心的な要素に据えたこと、現実の歴史における事件や災害を下敷きに虚実を織り交ぜて、約100年におよぶ作中の出来事を史実であるかのように描写したことでしょう。

 特に「奇門遁甲」や「蠱毒」といった占術・呪術が(オタク界隈で)一般的な知名度を得たことに関しては、この作品の果たした役割は非常に大きかったと言えます。

 陰陽師式神を使役して戦うという現在では魔術モノとしてありふれている描写も、『帝都物語』がなければ広まっていないかもしれません。

OVAより、五芒星(ドーマンセーマン)が刻まれた紙片を用いて式神を放つ加藤。
サイキックバトルでありがちな光景は元を辿れば、だいたい本作に行き着きます。




 そんな、謂わば「擬古物語風ダークファンタジー」の先駆けともいえる帝都物語』の主役魔人・加藤保憲です。

 公的には『帝都物語』は「帝都・東京と、そこに住まう人々」を主人公とした群像劇なので、加藤を「主人公」と定義するのは語弊がありますが、彼が物語の中心に位置し、状況を動かす側のキャラクターであることに疑いの余地はないので、「主役」と呼ぶことに差し支えはないかと思います。



 本編開始時点の加藤は大日本帝国陸軍の少尉*1である一方、近代日本経済の父・渋沢栄一が推進する「帝都改造計画」において、帝都・東京を霊的に完璧な都市として整備するために招聘された怪異の専門家という立場にあります。

 しかし、加藤の正体は古今東西の魔術に通じた人ならざる者であり、帝都の完全崩壊という目的のため東京の地下に眠る日本最大最強の怨霊・平将門を呼び覚まさんと暗躍する加藤と、それを阻むべく戦う東京の人々……といった構図で物語は進行していきます。

別に今更小説読めとか映画観ろとか言わんから、とりあえず
このクソかっこいいアニメのパッケージだけ見てください。




 つまるところ、単純な善悪二元論では完全に「悪」の側に属するキャラクターなのですが、その一方で海外勢力による日本支配を阻止する動きを採ったり、東京滅亡後に新たな都となるべき土地を選定したりと、あくまで東京を滅ぼすことが目的で、日本そのものを消滅させようとはしない……彼が何ゆえに帝都の滅亡、平将門の復活に執念を燃やすのか────その行動原理は物語の最終盤まで明らかになりません。



 加えて、作中最強格のキャラクターでありながら無敵というワケでもなく、幸田露伴三島由紀夫といった一介の文士に野望を挫かれる、鬼神たる自身の対の存在である観音力を持つ女性との愛憎に溺れる、自らの動きに将門が呼応しないことを嘆き、怒り狂う……といった人間味に溢れる部分もあって、それが加藤を単なる「悪役」として片付けられない魅力を持った異質な存在に押し上げています。



外見

 作中、様々な時代に色々な場所で活動するため服装の幅がわりと広いキャラではありますが、最もよく知られているのは外套付きの旧日本軍の軍服に制帽、黒い五芒星が描かれた白地の手袋という姿でしょう。

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 原作当初の加藤は「年齢という概念を感じさせない」という以外には、いかにも軍人然とした外見的特徴の薄いキャラクターでした。

原作小説第2巻、第3巻の表紙(初版)で描かれた加藤保憲
得体の知れない雰囲気こそあるものの、容姿はわりと普通。




 それを一変したのは1988年────特撮の巨匠・実相寺昭雄監督の手による実写映画『帝都物語』の公開でした。

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 演じる嶋田久作は当時32歳……といっても彼は4年前まで俳優業とは無縁の庭師として生計を立てており、29歳の時に初めて舞台に立った全国的には無名に等しい存在で、映像作品の世界では正真正銘「新人」という立場でした。



 ぶっちゃけた話、一つの映画として観た時の『帝都物語』の完成度は褒められたものではありません。

 原作1巻~4巻までのストーリーを2時間ちょっとの尺に詰め込むワケですから、速すぎる展開に雑すぎる描写で、原作を知らない人が観ても「なんじゃこりゃ」以外の感想を引き出すことは困難を極めます。



 それにも関わらず、この作品が日本のサブカル史に多大な影響を及ぼした伝説的存在と成り果せたのは、誰も知らない謎の男が帝都滅亡を目論む謎の魔人を演じることにより、その存在が妙に真に迫ったものに感じられたがゆえでしょう。

 原作者・荒俣宏もまた「嶋田加藤」に魅せられた一人であり、以降に刊行された『帝都物語』原作には加筆修正が施され、加藤は明確に「顎が異様に長い」怪人物として描写されるようになりました。

OVA(左)と高橋葉介による漫画版(右)の加藤保憲
いずれも、実写映画版に寄せて顔が長くなっています。




能力

 前述の通り、加藤は風水や陰陽道をはじめとした古今東西のあらゆる魔術・呪術に精通した魔人であり、様々な超能力を駆使することができます。

 特に陰陽道に関しては、安倍晴明の流れを汲んだ名門で古代より天皇家の守護者として、その道の頂点に君臨してきた土御門家の総力を一人で捻じ伏せてしまう圧倒的な実力を有します。

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 禁忌の妖術の類も躊躇なく使用するため、人間の体内に怪虫を棲まわせて意のままに操る、地中の気脈を流れる力を操作して地震を起こす*2尸解仙の秘術を用いて不老不死となる、といった芸当も平然とやってのけます。



 ただ、SFやファンタジーにありがちな「超能力者」「サイキッカー」の類と決定的に違うのは、それらの術式が一応(都市伝説的な意味も含めて)実在する技術であるがゆえに、そのルールや仕来りの制限を超越することは出来ないという点です*3

 風水を用いて時節や方角の吉凶を占って将来のリスクを回避することは出来ますが、吉凶そのものを望むように変更するとか、時機の到来を前倒しにするとか、そういった力は持ちません。

 それゆえ各時代の知識人やオカルトマニアの知恵と労力の結集に退けられることもしばしばで、「圧倒的な力を持ちながら、なんだかんだで勇者たちの共闘の前に敗れてしまう」という図式は、格ゲーのラスボスに通じるところがあるかもしれません。

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わりと「ぐぬぬ・・・」って顔もする加藤さん。



 軍人であるがゆえ、単純な身体能力も常人とは比較にならないレベルにあり、剣術の達人でもありますが、作中の刀剣を用いた戦闘では伝説的な妖刀だの超古代の宝剣だのが振り回され、剣に秘められた霊力が結果を左右することになるため、加藤本人の剣技スキルは正直どうでもいい要素となっている感が否めません*4



正体

 日本という国家・日本人という人種は、その形成の過程で多くの「異物」を排除し、滅ぼすことによって現在の姿を築いてきました。

 大和民族によって国を逐われた蝦夷や土蜘蛛、歴史の闇へと消えていった朝廷への反逆者────彼ら「まつろわぬ者」たちの怨念が鬼として化身した姿……加藤は自らの存在をそのように解釈していました。



 明治四十年に当時の大蔵省敷地内に築かれた平将門首塚接触して以来、加藤はあらゆる手段を用いて地底に眠る将門の霊を目覚めさせようとしましたが、その試みは全て失敗に終わりました。

 挙句には将門自身の意を受けた有形無形の刺客たちが現れ、加藤の行く手を阻む始末……加藤は地下に眠る邪悪な亡者たちを復活させて東京を永遠の廃墟とするべく、もはや東京の守護神に成り下がった将門を打倒せんと地底に乗り込みます。



 数々の死線を潜り抜け将門のもとへ辿り着く加藤……そして彼は、平安の昔に朝廷に仇なして討伐され、死後に関東を鎮護する大地霊となった平将門が自分とまったく同じ顔であるという衝撃の事実に直面します。

 加藤が目指していた破壊神・将門の復活は、最初から果たされていました……魔人・加藤保憲こそが、現世に蘇った平将門の怨念そのものだったのです。



 東京の守護神となった平将門は、自らの内に燃え盛る復讐鬼としての怨念を具現化させ、自ら滅ぼすことで己を鎮魂し世の平穏を保ち続けてきた……要するに将門と加藤は「神様とピッコロ大魔王の関係」にあり、破壊者としての己の分身を生み出し、滅ぼすことで、将門は自らを鎮魂していたのです。



 物語は両者が決戦の最中、帝都の崩壊とともに闇の中へ消えてから五年後────桜の咲き誇る大霊場となった東京で、生き残った者たちが加藤が将門を討ち倒した可能性に言及し、戦慄を覚えたところで幕を閉じます……。



影響

 魔人・加藤保憲が昭和末期~平成初期の日本サブカル界に与えた衝撃の大きさは、以前に拙作動画でも触れた通りです。

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 数ある「加藤チルドレン」の中でも、漫画『力王 RIKI-OH』に登場する軍人風のキャラクター「鷲崎」については、ベガの元ネタとなったという点で、私の中で特別視せざるをえない存在であると言えます。
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雑感

 ……とまぁ、こんな感じで格ゲーの元ネタになったキャラだったり作品だったり、歴史上の出来事だったりを語ろうという試みなんですが、いかがでしょうか?



 ありがたくも動画シリーズの復活を望んでいる方が多数いらっしゃるのは承知しているのですが、諸事情あって現在転職活動中でして、なかなか時間がとれません……大変申し訳ありませんが、今しばらくお待ちいただけると幸いです。

 そんなワケで、このブログの方で代替企画として、こういった記事を気が向いた時に投稿していこうと思っております。





 

*1:わりとすぐ中尉に昇進、最終的には陸上自衛隊の陸将補(他国の軍隊でいう少将に相当)まで昇ります。

*2:作中世界では、1923年の関東大震災は加藤によって引き起こされたものとして描かれます。

*3:実写映画の第2作帝都大戦』では典型的な「なんでもアリのサイキッカー」になってしまっているため、大いに原作ファンの不評を買っています。

*4:物語の終盤、角川書店の社長と一騎討ちを演じて、結局倒しきれずに終わるところは質の悪い冗談としか言いようがありませんw