発行年月日:1997年6月1日
出版社:勁文社(ケイブンシャ)
項数:143ページ
定価:1,100円(税別)
概要
初代『SAMURAI SPIRITS』から『天草降臨』までを一冊にまとめて紹介する、文字通りのガイドブックです。
版元は当時、子供向けのサブカル本「大百科シリーズ」やゲーム攻略本「ゲーム必勝法シリーズ」で名を馳せていた勁文社ですが、おそらく当時を知る人にとっては「ケイブンシャ」とカタカナで表記した方が馴染み深いものと思われます。
剣士紹介
歴代のプレイアブルキャラおよびボスキャラ────総勢26名を、一人ひとり見開き2ページずつ使って紹介していく本書のメインコンテンツです。
右側のページにイラストと公式プロフィールを配し、左側では歴代タイトルのゲーム画面の切り抜き写真と簡易な解説文で代表的な必殺技の変遷を辿る構成。イラストページの下段にはそのキャラの生い立ちや、何のために闘いに身を投じているのかといったバックストーリーの端的なまとめも付いています。
この手の書籍にはありがちな、「覇王丸やナコルルには2ページ割くけど、幻庵とか1ページで十分でしょ?」的な措置を採ることなく、全キャラを平等に扱っているところは個人的にポイント高いです。
サムスピキャラを知るための入門書として、なかなか有用と言えるのではないでしょうか。
シリーズ紹介
歴代4タイトルがそれぞれ、どういった作品だったかを振り返ることに主眼を置いた、もう一つのメインコンテンツ。
基本的にアーケード/ネオジオ版に準拠した内容になっているため、「弱斬り」とか「強斬り」ではなく「A」だの「C」だの表記しているところはご愛嬌。
そのタイトルで新たに登場したシステムや隠し要素の解説が主で、当時のユーザー動向や、どのキャラが強かった等の「世相」についての記述はありませんが、作品のメインストーリーやキャラクター相関図なども掲載されていて、さながらカタログのような体裁を成しています。
その他
上述の二つのメインコンテンツに挟まる形でイラストギャラリー、巻末にはキャラクターデザインに関する開発段階の資料が収録されていますが、後年に発売された画集や設定資料集、『サムライスピリッツ ネオジオコレクション』等を持っている人には、そうしたページの価値は今となっては然程には高く感じられないでしょう。
一方でQ&A形式の開発スタッフインタビュー、CV担当の声優陣へのインタビューなどには本書でしか見受けられない記述も含まれており、非常に資料価値が高いと言えます。
このほか、何を根拠に順位を決めたのか分からないキャラクター人気ランキングや、当時まだ実現していなかった「アースクェイクvs首斬り破沙羅」、「初代の大包丁王虎vs真サム石柱王虎」といった夢のカードを妄想で検証する架空対戦など、ネタコーナーも充実しています。
雑感
この本の発売当時9歳だった私は鹿児島県の外れの方の港町に住んでいました。町で唯一の回転寿司での食事を終え、その隣にあった小さな本屋で平積みされた本書を見つけて、祖父におねだりして買ってもらったのを鮮明に憶えています。
格ゲーの紹介本が田舎の書店で平積みで売られているなどという状況は今日の若者たちには想像できない光景かもしれませんが、格ゲーブーム真っ只中の90年代にはジャンプやマガジンのような感覚で『ゲーメスト』や『ネオジオフリーク』が当たり前のように雑誌棚に置かれていて、攻略本コーナーも今よりもずっと扱いが大きく、ドラクエやポケモンの攻略本と変わらない待遇で格ゲー関連の書籍が並んでいたものです。
店の入り口にMVSをはじめとした業務用筐体が設置されているのもごく普通のことで、本屋で働く店員さんたちも、プレイする/しないは別にして仕事中に嫌でも目にする物体として格ゲーを知っている……そういう時代でした。
本書の発売時点ではシリーズ最新作『天草降臨』はプレイステーションやセガサターンには移植されておらず、一方でアーケード版は稼働から半年以上が経過している……そんな微妙な時期にありました。
これまた昨今とは異なり、次から次に新たな格ゲーがリリースされる時代ですからユーザーの関心の遷り変わりも非常に速く、筐体のオーナーたちもそうした空気を敏感に察知してより良いインカムを求めて稼働タイトルを入れ替えてしまうため、一つのタイトルが盛況を保っていられるのは数ヶ月~半年といったところ。
この年は3月に『鉄拳3』、5月に『ヴァンパイアセイヴァー』と、その例に当てはまらず長期にわたって人気を保つことになる歴史的傑作が立て続けに登場しており、また7月には『THE KING OF FIGHTERS '97』の稼働を迎えようとしていました。
町内の筐体から『天草降臨』はすっかり姿を消してしまい、プレイしようと思ったら車で1時間くらいかけて大きな街のゲームセンターまで行かないと……といった状況に追い込まれた私にとって、本書はサムスピの世界観にどっぷり浸かることが出来る「小さな桃源郷」とも言うべき役割を果たしてくれたものです。
なんならその時点ではまだPS・SSも持っていなかったので、前作の『斬紅郎無双剣』さえ憧れの存在であり、斬サム・天サムに想いを馳せながらスーファミの初代をチマチマと遊ぶ日々を送っていたのですが……それはまた別のお話。
本書の冒頭には、シリーズの重要人物である天草四郎時貞が現実の歴史において起こした江戸時代の一大事件「島原の乱」の概略が記載されているのですが、そのページを読んだ私は「島原の乱ってなんじゃらほい」と町立図書館で関連図書を読み漁り、これをきっかけに歴史に興味を持つようになりました。
その後、サムスピは勿論のこと『信長の野望』や『三國志』、『るろうに剣心』、NHK大河ドラマ等を通じてその関心の芽を育てていった私は最終的に大学で歴史学を修めるのですから、ある意味で本書は私という人間そのものを作り出した戦犯……もとい、私の人生を決定づけた一冊ということになるのでしょうか。